湯澤工業株式会社

建設事業のデジタルトランスフォーメーション(i-Con)への挑戦

国土交通省に属する地方総合整備局の一つである関東地方整備局のICTアドバイザー※1に認定されている湯澤工業。建設業のミライを見据えたi-Construction※2の推進により、企業規模の拡大・売り上げの向上に成功した実績を持ちます。今回は、山梨県建設業協会青年部会の部会長も務める、湯沢 信 常務取締役にDX推進内容や経緯、今後の取り組みについて伺いました。

※1_関東地方におけるICT施工の普及促進を目的として、施工者や発注者が持つ疑問点や課題などについて、経験者からアドバイス等の支援を行う企業・団体のこと。ICTに関する専門知識とICT施工の技術支援に関する知見を持つ企業・団体に対し、関東地方整備局が認定する。 
※2_国土交通省による、「ICTの全面的な活用(ICT土工)」等の施策を建設現場に導入することによって、建設生産システム全体の生産性向上を図り、もって魅力ある建設現場を目指す取組

湯澤工業株式会社

企業概要

 1958年創業、護岸工事等の土木工事を中心とし、産業廃棄物の処理と木質ペレット製造の事業を展開。土木部と環境部の2つの組織で土木工事の施工から廃棄物処理再生および環境保全業務(ペレット製造等)に取り組んでいます。経済の発展とともに増大する産業廃棄物や資源の枯渇・地球温暖化などの社会課題に対して真摯に向き合い、地域の持続的な発展に貢献している。

事例詳細:取り組み内容インタビュー

           湯沢工業株式会社
           常務取締役  
            湯沢 信 氏

――DX推進の取り組み内容について教えてください。

湯澤常務取締役:DX化・デジタル化に挑戦を始めてから6年経ちます。現在取り組んでいる「i-Construction」と呼ばれる取り組みの前に、「情報化施工」という言葉があったのですが、、そこから含めるともう少し長くこのフィールドでチャレンジしてきました。弊社のDX化・デジタル化の主な取り組みとしては、測量分野での事例があります。測量の機器と業務のフローの見直しに取り掛かり、まずは最新のレーザースキャナーによる測量を取り入れました。その結果、従来の測量に比べて設置にかかる稼働、測量のスピードを改善させ、測量稼働を大幅に削減することができました。
(従来2日かかるところを半日に改善)

       【3Dモデルのイメージ】

 また、削減できた稼働を有効活用し、従来の測量業務フローを一部見直し・改善を行いました。具体的には、測量機器から収集できる「地形や建物の点群データ」とドローンによる空からの測量による「地形や建物の点群データ」の組み合わせによる、リアルな3Dモデル(デジタルツイン)の作成です。
 この技術により、実際の地形のイメージを見ながら工事手順の確認や車両の経路確認などをすることができ、工事中での後戻りが少なくなりましたし、周辺の住民への説明の時にも完成予想図を実際に見せることができるので、工事作業の内容に関して安心・納得して頂くことが出来るようになりました。

上記業務は、DX化の当初は想定しておらず、副次的な効果として得られたものになります。我々としては作業員の業務負担を軽減するために実施した測量機器、測量業務の見直しが、リアルな3Dモデル(デジタルツイン)の作成につながったことより、「測量+α」の価値をお客様(依頼主)や地域住民の皆様へ提供することが出来ました。そうして弊社湯澤工業を選んでもらえる機会も増えたと実感しています。

さらに、直近では先ほどの測量業務と連動したICT建機の導入も進めています。
あらかじめ作成した3次元データを建機に取り込むことで、衛星から受信した位置情報を基に、どこを何m掘るか教えてもらうことができます。また、掘りすぎないように止まってくれます。
これにより、従来は掘り具合を確認する人と重機を動かす人の2名で進めていた工事を、重機側の1名だけで進めることができます。
しかも、繊細な作業(熟練した技術と業務経験)が要求されるブルドーザーでも、新入社員が扱うことができるようになりました。

        【ICT建機の工事】

――DXを進めた背景について教えてください。

湯澤常務取締役:建設業は「かっこいい」ということを多くの人に伝えたいからです。社会にとって重要な仕事なのに、建設業で働く人は減っていき、担い手の確保ができない状況です。土に触る泥臭い部分はあるのですが、若い人がワクワクするような建設業を創ることが一番のモチベーションです。加えて、弊社は創業時に大手企業の下請けから事業が始まりました。しかしながら、現在では国土交通省の工事の元請けを受けられるようにまでなりました。当初自社として、下請けというイメージ、下請け体制・マインドから脱却するためにも、なにかDXの切り口で差別化できるものを掴んでいこうという思いがありました。

 あとは、自社だけでなく山梨県内・全国の建設業界で働く人々が集まるコミュニティに自分から入り込んだことも大きなきっかけになっています。「やんちゃな土木ネットワーク」※昨年解散というコミュニティに参加しており、そこではドローンを自分たちの持ち出しで買って、3Dをどう活用するかを勉強して各々の技術を磨いて競っていました。そんな人たちと一緒に勉強をしてみるのも、いい刺激になりましたし、自社でDXを推進する良いきっかけになっています。

――DX推進の効果について教えてください。

湯澤常務取締役:DXを始めた6、7年前から右肩上がりで売上と社員数が順調に伸びてきています。10年前は売上10億でしたが前後、毎年売上1億円を伸長させることが出来、今は売上20億円の会社になってきています。その理由はやはり、デジタル技術を取り入れたことによって生み出すことが出来た「湯澤工業独自のお客様へ提供できる価値、住民の皆様へ届けることが出来る安心」が差別化につながっている成果だと思っています。

 採用という面でも、若い人を毎年2~3人を採用できるようになってきました。 建設業の合同企業説明会に出たら前は0人だったのですが、直近2年は大渋滞ができてます。

――DXを進める上で大変だったことはありますか?

湯澤常務取締役:デジタルの活用が絶対必要だなと思ったんで、何とかして現場を3D化して業務を楽にしたりとか、かっこよくしたいという一心でDX化に必死に邁進していました。笑

 2016年に初めて「ファントム4」という20万円の測量用のドローンを1台購入しようとしたのですが、社内で誰も有用性に気づいていないので、「高い!」と否定されてしまいました。その時私は、この機器の出来ることを知っていたので「1億円の工事をするのにたった20万円の材料を買わないのか」と思ったのは事実です。

 ただその否定は、この新しい技術・サービスを使えば「いまの仕事が大きく変わる。楽になる。出来なかったことが出来るようになる。」ということを知らないだけなんですね。そこを丁寧に言葉にして数字にして伝えることを意識して取り組んでいました。
また弊社の事業は国からの工事を請け負っている部分が大きく、2015年から国が取り組み始めたi-Constructionに誰が・どのように対応するのか?社内でも議論があったため、私自身が責任をもって進めると宣言し、社内でのDX推進の旗振り役として第一歩を踏み始めることができました。それからも熱量と論理で押し込む形で、他にもICTデバイスをいくつか購入を進めました。国の制度の追い風というのはあってよかったです。

――今後の展望はありますか。

湯澤常務取締役:今後は、共感できる仲間を増やしていく活動を拡大していきたいです。企業の価値を高めるために、仲間(社員)の価値を高めることが重要です。いままでは仕事が人を育てていたのですが、人が育つような仕事を待つのではなく、会社が能動的に「人が育つ環境」を作ることが重要だと考えています。すでに、社内で建機の技能大会を開催し、目の前で熟練者の技術を吸収できる、若い人のモチベーション高まるような取り組みも進めています。また、先輩社員との勉強会も開催しており、そういった交流の機会がコミュニケーション力(人に作業を伝える)向上にもつながっていたりと徐々に効果が出始めています。

――これからDXを進めようとしている企業のみなさまへメッセージをお願いします。

湯澤常務取締役:まずは、社員が「楽に・楽しく」働ける環境を考えみませんか? デジタル技術はあくまで物をつくるための手段です。DXでは従来の仕事を見直すだけでなく「変革すること」が求められるため、そこにお客様に新たに提供できる価値が隠れているのでは?と思っております。私的にはそこが社員が「楽に・楽しく」に繋がると信じています。是非DXに共にチャレンジしていきましょう。

あとがき 山梨DX推進支援コミュニティ事務局

湯澤常務取締役のお話を伺い、DXを進める上で重要なことは「デジタル技術に興味を持ち、まず使ってみる」ことだと感じました。まずは経営者が責任をもってDXに取り組み、日々の業務に組み込んでみると、従業員も自然と自身の業務が変化してくることを実感していきます。こうして徐々に社内でDXに前向きに取り組む雰囲気が出来上がってくるのだと感じました。

 また、「自分だけで悩まず、同じ悩みをもつ人と交流すること」の重要性も感じました。湯澤常務取締役は「やんちゃな土木ネットワーク」という同じ志をもつコミュニティに所属したことで、最新技術に関する学びや同じ課題・悩みを持っている企業との意見交換による課題解決の経験など、本当に多くの刺激を得たとおっしゃられていました。

 山梨DX推進支援コミュニティには、DXに悩みをもつ会員の方々がたくさんいらっしゃいます。やまなしDXエンジンでは同じ悩みを持つ企業のDX事例等を掲載しておりますし、気軽に疑問や質問を投げ込み、回答が出来る掲示板も準備しております。この記事をご覧になった皆様、是非一度アクセスして頂き、ご意見など頂ければ幸いです。

山梨DX推進支援コミュニティ:小林和貴

*文中に記載の組織名・所属・肩書き・取材内容などは、全て2023年3月時点(インタビュー時点)のものです。
*上記事例はあくまでも一例であり、すべてのお客さまについて同様の効果があることを保証するものではありません。

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