合名会社寒梅酒造様

ただ、おいしい
お酒を届けたい。
IoTを活用した
酒造りへの取り組み

合名会社寒梅酒造様

従業員数

7人(2019年2月現在)

ソリューション導入の目的

よりおいしいお酒「宮寒梅(みやかんばい)」を効率的につくりたい

IoTセンサーやカメラを使って温度などを把握し、業務の効率化に貢献!

導入したDXソリューション

事例詳細

「おいしいお酒」が造れない! 倒産の危機に直面していた寒梅酒造

――岩﨑代表と酒造りの関わりについてお教えください。いつ、どのようなきっかけで酒造りに携わることになったのでしょうか?

岩﨑氏:寒梅酒造の長女である妻と出会ったことがきっかけで、酒造りに関わるようになりました。妻と出会ったのは学生時代。たまたま同じ大学に通って いて付き合うことになり、大学4年の冬休みに妻の実家である寒梅酒造でアルバイトをすることになって、そこではじめて、酒蔵の清掃やしぼりなど、酒造りに関連する仕事を体験しました。

合名会社寒梅酒造 代表社員 製造責任者 岩﨑健弥氏

 寒梅酒造でアルバイトをして最初に感じたのが、「改善できる点がたくさんあるな」 ということでした。酒造りは農家の方々が、冬の農業閑散期に副業のような形で取り組むことも多い仕事です。そのせいか、酒造りも農業時間で動いており、朝6時から仕事が始まり、7時にはみんな揃って朝食をとるというスケジュールが厳守されていました。同時に、夜中に起きてもろみの様子を確認するなど、酒蔵ならではの業務も行わなければならず、休みが取りにくい状態だったのです。アルバイト時代からずっと「こうした慣習・固定観念を改善すれば、効率化が進み、よりおいしい酒造りに専念できるはずだ」と思っていました。

 その後、妻と結婚し、寒梅酒造の従業員として働くことになり、本格的に酒造りの道に進むことになったのです。

――ご結婚当時の寒梅酒造は、どのような状況だったのでしょうか?

岩﨑氏:業績の悪化に歯止めがかからない状態でした。経営が傾いていた原因は、業務効率の悪さと、そしてなにより「お酒がおいしくなかった」ということに尽きると思います。当時の寒梅酒造は、歴史が長いがゆえのルーチン化や危機感の欠如などから、味の追求 が二の次になってしまっていたのだと思います。

 立て直しのため、まずは在庫を処分するところから始めました。2~3年かけてほとんど売れなかった古酒を整理し、県外から米を買うのをやめ、自社の田んぼや県内で育った「顔の見える農家」の米だけを使い 、それまで300種程度あった商品を5種類に絞り込んで製造することにしました。ちょうどそんなとき、東日本大震災が発生し、家や酒蔵が全壊。事業を畳むか継続するかで悩みましたが、酒蔵を建て直して継続することを選択し、より力強く酒造りを推し進めました。そして2018年4月、現会長は農業に専念するため代表を辞任。これに伴い、私が代表を引き継ぐことになったのです。

女性にも喜んでもらえるプロモーションとIoT機器の導入で、長く愛されるブランドへ!

――代表に就任されて からすぐ、味のイメージを伝えるロゴの作成、ウェブサイトのリニューアル、SNSでの積極的な情報発信やオンラインショップのオープンなどに着手されたとお聞きしました。

岩﨑氏:先代が「日本酒に適した米づくり」に専念し、私が「おいしい酒造り」と営業などを行う形で分業することになって、プロモーション活動に注力できるようになりました。まずはペルソナの定義を行い、営業戦略を立案。おいしく、柔らかく、華やかな香りのある宮寒梅を女性にも届けようと決めて、梅の花をモチーフにした愛らしいロゴや、酒造りへの思いを伝える優しいイメージのウェブサイトを作成しました。並行して、酒造りにIoT機器を導入し、よりお酒の質と味を高められるような環境を整え始めました。

熟成中のもろみを確認する岩﨑氏

――どのようなIoT機器を導入されたのでしょうか?

岩﨑氏:もろみの温度を自動で計測・記録しスマートフォンで確認できるシステムや、もろみの状況を確認するライブカメラ、センサーなどを導入しました。NTT東日本の方から「こういうシステムがある」と紹介されて、すぐに「導入したい!」と思ったことを覚えています。

 システムを導入したことで、業務の負担が軽くなりました。以前は1日に4~5回、酒蔵に行って、もろみの温度などを計測し、手書きでデータを記録しつつ様子を見ていたのですが、現在はデータが自動で計測・記録され、スマートフォンで確認できる仕組みになったため、酒蔵での確認は朝夕2回のみで済むようになりました。これによって、外出する機会がぐんと増えるように。酒屋とのコミュニケーションが活発になり、さまざまな情報が入ってきて、蔵にこもりがちな酒造りの現場が変わりつつあると感じています。また、次の商品の戦略立案にも時間を割けるようになりました。

 それとライブカメラが高性能なことも外出先で役立っています。インターネットを介し、出張先で手軽にもろみの 表情や溶け具合をクリアな画像で確認することができるようになり、安心して出張に出向けるようになりました。

 なによりいいなと感じているのが、これらのデータによって、より的確な指示が出せるようになったところです。以前は電話などで聞いた情報をもとに想像を働かせて、出張先などから従業員に指示を出していたのですが、現在は確かなデータとカメラの映像をもとに、より確実な指示出しができようになりました。これらのデータは全従業員が確認できるようになっており、業務の引継ぎや教育にも役立っています。

酒蔵に設置されたIoTカメラ、IoTセンサー

売上は約4倍に!海外エアラインで採用されるお酒へと成長

――もろみの中心部と外側にセンサーを設置し温度などを計測するという試みも行っているとのことですが、なぜIoT機器を駆使して計測しているのでしょうか?

岩﨑氏:おいしいお酒を造るには、0.1度単位の非常に繊細な温度管理が必要です。これまでは杜氏が長年の経験を頼りに酒造りを行ってきましたが、データを参照することで、なにか新しいことがわかるかもしれないと考えました。おいしいお酒に近づけるための実験のようなつもりで、数カ所の温度を計っています。実際にもろみの中心部と外側、計4カ所にセンサーを設置し、常に温度を計測することで、「中心部と外側でそれほど温度に差がないこと」や「高品質と言われるもろみの温度推移」などがわかるようになってきました。まだまだデータ集めの段階ではありますが、計測と検証を続け、「多くの人と、杜氏の経験と勘、そしてデータを組み合わせた、より質の高い酒造り」をしたいと考えています。

――現在だけでなく将来のことも見据えて、IoTを活用していらっしゃるのですね。酒蔵という職人の世界にIoT機器を入れることに抵抗はなかったのでしょうか。

岩﨑氏:抵抗はまったくありませんでした。NTT東日本の方が訪ねてきたときも「ICTを扱っている企業が酒造りに興味を持ってくださって、とても嬉しいな」と思いました。「おいしいお酒を造りたい」という思いを理解し、共感して、私たちがスムーズに受け入れられるよう段階的にソリューションを提案してくださった。パートナーとして、ともに歩んでくださっているなと感じています。

 さまざまな取り組みを重ねたことにより、宮寒梅の出荷本数は、年間およそ150石から600石(1石=約180リットル)へと約4倍に増加しました。2019年2月から、シンガポール航空のスイート、ファースト、ビジネスの各クラスで提供されることになり、ますますの広がりを感じています。海外のお客さまにも、もっともっと宮寒梅を楽しんでいただけると嬉しいですね。

 今後も、当たり前にとらわれず、新しい技術や考えをどんどん取り入れて、「一口飲んでおいしいお酒」を追求し続けたい。奇をてらわず、生真面目に、手段を問わず、ただおいしい酒造りを続けたいと思っています。

  • 導入サービス:「ギガらくWi-Fi ハイエンドプラン バリュータイプ(5年タイプ)」「ギガらくWi-Fi IoTサポートオプション(農業タイプ)」「フレッツ・あずけ~るPROプラン」(2018年10月導入)
  • 文中に記載の組織名・所属・肩書き・取材内容などは、全て2019年2月時点(インタビュー時点)のものです。
  • 上記事例はあくまでも一例であり、すべてのお客さまについて同様の効果があることを保証するものではありません。
#よく読まれているDXの記事 #IoT #事業成長 #酒造業